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映画「三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実」

 民主主義の根幹は、多様な意見や思想を互いに認め合うことだろう。しかし、インターネット隆盛の昨今はどうか。匿名の卑劣な批判がネット上にあふれ、若者が萎縮してしまっている。
 あの頃の若者は政治談義に良くも悪くも熱かった。自己主張をごり押しするため、口角泡を飛ばして面前の相手を論破した。時は天才作家・三島由紀夫(1925~70年)が自決した前年の69年、ところは東大駒場の900番教室。右翼的天皇主義の作家と急進的な左翼思想の東大生千人の伝説の討論。知の戦いが幕を開ける。
 汗と紫煙と青臭い政治論。教室には三島を言葉で打ち負かすべく学生の熱気が充満していた。TBSが半世紀もの間、保管していたビデオテープは赤茶けたルックで、まだ戦後色を濃く残す。
 今の若者は、三島を知っているか。細江英公の写真集『薔薇刑』で、三島は鋼の筋肉美を披露。ナルシストの天才といった印象を抱く読者も少なくないだろう。
 詰め寄る学生の意見に、三島は真摯に耳を傾け、時にユーモアを交えて返答。現代に一番必要な大人の寛容である。しかし、約80分の討論で両切りピースが3箱も空になったのだから、敵陣に乗り込んだ三島の緊張は相当だったのだろう。
 作家らしく言葉の有効性を信じて、それを証明していく。教室にネット上で批判を繰り返す卑劣な匿名は存在しない。全員が実名で勇ましい。高邁な理想も民主主義を構成する一片である。人と人をつなぐ媒体として言葉に力があった時代だった。

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