SSブログ

映画「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」

 優れたドキュメンタリー映画に出合うと、新聞記者の仕事柄うれしくなる。真偽不明のニュースがネット上に氾濫する世で、事実のみを真摯(しんし)に伝えようとするドキュメンタリストの仕事に感動するゆえだ。
 米国産の本作は、そんなドキュメンタリストのジョン・チェスターと料理家の妻モリーが、理想のオーガニック農場を完成させるまでの8年間にもわたる貴重な記録である。
 動物写真家出身ゆえ、ジョンのカメラは植物の、動物の、大地の鼓動を鮮明に写している。開巻シーンから映像作家の主張がほとばしる。もうもうと煙が上がる山火事が、夫婦の丹精込めた農場に近づく。モリーは慌てて衣類をかき集め、家畜を避難させようとする。大自然の脅威、自然と共生する困難。人間は、時に猛威を振るう自然によって生かさせている小さな存在に過ぎない、との主張が耳朶(じだ)を打つ。
 2010年、愛犬の鳴き声が近所迷惑となり、夫婦は大都会ロスのアパートから郊外の荒れ地に引っ越す。200エイカー(東京ドーム約17個分)の土地は、単一果実の栽培で無惨に痩せていた。
 ここでありがたや、伝統農法を極めた老師が登場する。「生物多様性を実現し、生態系を回復するんじゃ」。老師のお言葉に従って、夫婦は自然堆肥による土壌改良、水の確保、果樹の栽培、家畜の飼育と次々に挑む。
 順調に思えたが、大きな障害が待っていた。コヨーテ、ムクドリ、カタツムリ…家畜に危害を加え、果実や葉を食い尽くす。まったくもって厄介な害獣・鳥・虫である。さらに現地特有のすさまじい強風が襲う。
 頼みの老師が彼岸の人となり、夫婦は大自然の前に屈しそうになる。その窮地を救ったのは、映像作家ゆえの冷静な観察眼だ。害獣と益獣の関係性を見つめ直す。この難問の解決法が、地球上の全生物の命の円環ということを私たちに教えてくれる。ドキュメンタリー映画ながら、起承転結のストーリー構成がしっかりとできている。
 人生100年時代、セカンドライフの過ごし方をあれこれと考えている読者も多かろう。本作を通観すると、好きな道、信じる道が必ず見えてくるはずだ。

nice!(0) 
共通テーマ:blog

nice! 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。