SSブログ

映画「ケアニン ~こころに咲く花」

 「どうせ殺すなら、一気に殺して欲しい。もう長生きしたいなんて思わない」
 東京都内の団地で貧困の一人暮らしを強いられる80代女性の悲痛な叫びである。『老後破産 -長寿という悪夢-』(新潮文庫)から引いた。
 同書によると、ひとり暮らしの高齢者は約600万人とされ、その半数は年収が生活保護水準を下回っているという。この貧困層が病気にかかれば、そく老後破産に陥る。一生懸命の勤労が報われない。厳しい老後の現実もある。
 本作は3年前に公開された『ケアニン ~あなたでよかった~』の続編。幸い伴侶はいるが、妻(島かおり)が認知症で特養老人ホームに入所する。これまで自宅で献身介護してきた夫(綿引勝彦)は、通り一遍の施設介護に不信感を抱いている。そこに主人公ケアニン=介護福祉士の略語(戸塚純貴)が転職し、利用者ファーストの介護を実践しようとするが…。
 超高齢化社会は、社会保障費の膨張、介護施設・人の不足、高齢者の貧困格差などの問題が山積している上に、家庭ごとに個別具体の悩みがあって深刻だ。
 劇中、特養ホームは全国に約1万件あり約60万人が利用と前置き。鈴木浩介監督は、その巨大市場に難問を持ち込む。老老介護の限界、効率優先の介護、外国人技能実習生などとてもリアルだ。
 夫はマニュアル通りの機械的な介護職員に激高し、介護の理想に燃える若きケアニンはホーム経営陣と正面から衝突する。有り体に言えば2人は理想と現実の間で苦しむが、本作は人情が功利主義に打ち勝つ。また、認知症の妻を支える夫-子-孫の家族制度もきちんと機能する。
 憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が守られて〈めでたし、めでたし〉なのだが、映画化されない文頭のひとり暮らしの高齢者の末期に注視する人はほとんどいない。預貯金や自宅などすべての財産を失った結果の救済が生活保護では、あまりにも悲しすぎる。
 また、生活保護予備軍も少なくない。未婚率が上がり、年収200万円以下の低所得者は減らず、すべて国民の老後を思うと、暗澹(あんたん)たる気持ちになるのは筆者だけだろうか。

nice!(0) 
共通テーマ:blog

nice! 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。