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映画「インサイド」

 〈幽霊の正体見たり枯れ尾花〉。おびえていると、何でもないものも怖く見えることのたとえだが、人が震える状況を考えてみる▼まず真っ暗闇が筆頭だろう。照明が乏しかった江戸時代は、漆黒の闇への妄想がさまざまな亡霊を生み出した。三遊亭圓朝が21歳の時に作った怪談噺『真景累ヶ淵』を想起する▼テレビで人気の心理学者、植木理恵さんは極度の緊張から逃れるすべを身につけたという。「そのときの自分の状態を、自分が詳しく『ひとり実況中継』すること」だそう。著書『シロクマのことだけは考えるな!』(新潮文庫)から引いた▼なるほど、慌てふためいている自分のぶざまを客観的に言語化すれば、冷静さを取り戻して感情をコントロールできるかもしれない。では、そのお説の頼みである聴覚を奪ったら人はどうなる▼気鋭の映像作家は戦慄の状況設定に知恵を絞る。洋画『インサイド』(公開中)の若妻は運転する車の正面衝突事故で夫を亡くし、自らも聴覚障害となり、加えて身重である。雨の夜、不気味な女が自宅に現れ、臨月の胎児を奪おうとする。無音の残虐劇が開幕…▼女の正体は? 目的は? 命を狙われるのには相応の理由がある。『真景-』は親の殺人の祟りが係累にまで及ぶ因果応報噺で、映画の〈女の正体見たり○○○○〉の絞りにも古典の説得力があり、酷暑に背筋が寒くなる。

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