定宿

　栃木県・奥日光、群馬県・伊香保温泉には生意気のようだが、定宿がある。両宿とも老舗の宿で、その古き良き作りが疲れた体を優しく包み込み、気分が安らぐ。
　定宿は、奥日光が中禅寺湖畔の「湖上苑」、伊香保が石段沿いの「岸権」。それぞれ７月の梅雨時と９、10月の秋晴れに投宿している。
　梅雨の朝、湖を望む露天風呂に入るのは最高だ。誰もいない湖、鳥の声、雨のしずく、それだけで湖上苑に泊まる意味がある。
　秋の岸権は紅葉が始まる。遠望の山並みが青く霞み、全景の紅葉と見事なコントラストを織り成す。ここは従業員の方々がみな素晴らしいサービスを提供してくれる。駐車場から宿まで送迎するマイクロバスの運転手氏は「お帰りなさいませ」と満面の笑みで小生を出迎えてくれた。心が安らぐ。
　こうした旅行を元気なうちは続けたい。小市民のささやかな願望である。