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天性の破天荒

 「ワイルド」「破天荒」の虚勢が受けたお笑い芸人も、1年もせぬうちメッキがはげる。生地がないゆえ、世間の炯眼に看破されるのだ▼天性の破天荒芸人といえば、五代目・古今亭志ん生(1890~1973年)が浮かぶ。〈飲む打つ買う〉の三道楽を芸の肥やしとし、生涯借家住まいだった。臨終のきわに吸い飲みから口に含んで「あぁ、酒は旨いなぁ」(美濃部美津子著『三人噺』より)と言ったそうだから、遊びも筋金入りだ▼芸人は一発芸の飛び道具で売れるより、辛酸をなめて大器晩成が幸せである。志ん生名人は74歳の晩年、紫綬褒章を受章した。夫の胸の勲章に手を添える糟糠の妻とのツーショット写真が残っていて、晴れがましい▼現代芸人の開花期が短いのはひとえに勉強不足。まぐれ当たりの銭勘定を覚え、住宅ローンを組むような守勢では芸は育たぬ。名人は近代落語の祖『三遊亭圓朝全集』を「常に枕元に置き、稽古していた」▼と、孫で女優・池波志乃さんが語っており、人知れぬ努力家なのだ。江戸前型どおりの話芸は、名人の死後45年余を経た今も映像で私たちの腹をよじる▼「芸人は芸で勝負する」(結城昌治著『志ん生一代』より)。芸に一本気な朝太(志ん生の前座名)の矜恃は本分としてまっとうだが、一筆亭大凡下の身に置きかえて崇高である。「新聞記者は記事で勝負する」。まずは枕元の三文小説を始末せねば…。

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