習わし
「おめでとうさん」。京都・祇園の色町では、芸妓、舞子たちが年の暮れに日ごろ世話になっているお茶屋などを回り、こうあいさつする。この1年間を無事に送らせてもらった感謝と来年もどうぞごひいきに、という意味である▼日本人初のノーベル賞作家・川端康成(1899~1972年)が、小説『古都』(新潮文庫)に書く。こうした習わしが、いまも連綿と受け継がれているのだろうか▼古き良き習俗を律義に守るのは、効率第一のグローバル社会では難しい。皆さまは大みそかをどうお過ごしか。筆者は仕事だが、帰宅後に年越しそばを手繰り、元旦から細君のお節を肴に酒杯を重ねる。わが家のささやかな正月食景だ▼つれづれに新聞切り抜き帳を繰ると、いろいろなニュースの記憶が蘇る。「働き方改革元年」と銘打たれ、6月に関連法が成立。いよいよ来春から順次施行される▼残業時間の抑制、有給休暇の消化など、働く人の健康を守るには必要だろう。だが資源の乏しい国で生産性が落ちれば、経済の国際競争に負けて貧する。心の安寧と労働生産性の均衡が難しい▼私たちの業界はどうか。大みそかにも働く身で、偉そうなことは言えない。ただ、仕事も大事だが、先人が大切にしてきた習わしも守っていきたい。こよい除夜の鐘が鳴って、平成最後の年が来る。猪突猛進の速度を緩める、よいお年を。