SSブログ

無神経者

 電車内では、立っている多くの乗客が前進方向や窓の方向を向いている。これは別に本能ではなく、互いの不快を避けるための経験則である▼ところが、相手の顔があっても平気でそちらを向く者もいる。「このような無神経者の割合が、しだいに増えている」。愛読書『動作』(講談社現代新書)に人類行動学者・香原志勢さんが、1970年ごろに気付いたと著す▼それから約半世紀、至るところで、自宅のごとく振る舞う無神経な不行儀者を見かけるようになった。所用で出掛けた群馬・伊香保温泉の老舗旅館で、はた迷惑な女性2人が隣室の客となった▼都会の喧噪を離れた温泉宿に求めるのは、静かな時間と空間ではないだろうか。時計の短針が深夜1時近くなっても、女性客の会話と哄笑の大音量は下がらない。フロント係に注意してもらったが、なお続く▼草木も眠る丑三つ時、さすがに堪忍袋の緒を切り、隣の壁に向かって一喝。ようやくひなびた宿は平生の静寂を取り戻した。公衆の場では互いに少しずつ我慢することで、平穏が保たれるだろう▼翌日は群馬・高崎市のホテルへ。大混雑する朝食会場には、そろいのジャージー姿の男子高校生の集団がいた。胸や背に「中央学院剣道部」の刺繍。彼らは無言で食事を済ませては、周りを気遣って席を立つ。まことに行儀がよろしい。同県民として誇らしかった。

nice!(0) 
共通テーマ:blog

nice! 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。